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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1514号 判決

控訴人(被告) 東京国税局長

被控訴人(原告) 星野吉彦

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文と同趣旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴人の控訴を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の主張及び立証は

控訴代理人において、別紙(控訴代理人提出の昭和三三年五月一九日付及び昭和三五年六月八日付各準備書面の写)のとおりに述べ……(証拠省略)……たほか、原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

理由

被控訴人が王子税務署長に対し昭和二七年度分所得税の総所得金額を一五一、七四七円として確定申告をしたのに対し、同署長が昭和二八年五月六日付で右金額を三七八、五〇〇円と更正する旨の処分をし、これに対する被控訴人の再調査請求に対し、同年七月六日付で右更正金額を一部取り消して総所得金額を二一九、六〇〇円とする旨の決定をしたこと及び被控訴人がさらに控訴人に対し審査の請求をし、控訴人が昭和二九年六月三〇日付で右金額を一九九、七三〇円とする旨の決定をし、被控訴人が同年七月一日その旨の通知を受けたことは当事者間に争がない。

よつて進んで控訴人のした右所得金額算定の当否について判断すべきであるが、成立に争のない甲第一号証と原審及び当審における被控訴人各本人尋問の結果を総合すると、被控訴人はその肩書地で昭和二四年中から昭和二七年五月一九日まで豆腐商を営み、翌昭和二七年五月二〇日その営業を東京都北区豊島町三丁目二番地所在の労働者クラブ生活協同組合に委譲するとともに、給料の支給を受けて同組合に勤務するようになつたことが認められ、何らの反証もないから、被控訴人の昭和二七年度分所得税の総所得金額の算定についてはその前提として給与所得金額と事業所得金額とを明らかにすることを要する。

(一)  給与所得金額について

前示甲第一号証によると、被控訴人は労働者クラブ生活協同組合における昭和二七年五月二〇日から同年一二月三一日までの勤務により合計一〇〇、〇〇〇円(月割一二、五〇〇円)の給料を支給されたことが認められるから、当時施行中の旧所得税法第九条第一項第五号により被控訴人には右金額からその一〇分の一、五に相当する一五、〇〇〇円を控除した八五、〇〇〇円の給与所得があつたものというべきである。

(二)  事業所得金額について

被控訴人はその主張の審査請求に当り控訴人に対し昭和二七年分の事業所得金額は六六、七四七円であつたとする収支明細表を提出している(このことは成立に争のない乙第八号証によつて明瞭である)が、一体、この明細表はいかなる資料に基いて作成されたものであるか。被控訴人はその資料について沈黙しているので、同明細表の真偽を検討することは不能である。そこで、懸案の所得金額は結局合理的方法によつてこれを推定するほかはないが、当審における証人多賀谷恒八の証言によつて真正に成立したことが認められる乙第六号証及び第九号証の一と弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人は昭和二七年一月五日から同年五月六日までの間に埼玉糧穀株式会社から一、三九五升(四五升入三一俵)の大豆をその営業用として代金合計一〇八、九五〇円(一升当り七八、一六銭強)で買い入れたことが認められる。被控訴人は当審におけるその本人尋問で、右大豆のうち五、六俵は営業用として使用しないで室岡文次郎に転売したと供述するけれども、その供述は成立に争のない乙第一号証及び右室岡の当審における証言によつて真正に成立したことが認められる甲第三号証と対照して全面的にこれを信用する訳にはゆかない。そして、この点について被控訴人のために最も有利な証拠と考えられる右甲第三号証の記載をそのまま信用するとしても、被控訴人が室岡に転売した大豆はせいぜい四俵すなわち一八〇升を出ないことが明らかであるから、被控訴人の前記買入大豆からこの転売大豆を差し引いた一、二一五升は当時被控訴人の営業のために使用されたものと推定すべきである。

さて、被控訴人がその営業に当つて豆腐六、油揚四の割合で製造していたことは成立に争のない乙第七号証に徴して明瞭であるが、前示証人多賀谷の証言と同証言によつて真正に成立したことが認められる乙第九号証の一ないし四を総合すると、東京国税局の係員において業態が比較的に被控訴人のそれに近似しているものと思われる都内北区岩渕町の木田孫次郎、小林留吉、同区上十条の樋口栄、岡村丹の四名について昭和二七年当時の営業の実態調査をしたところ、別紙昭和三三年五月一九日付準備書面の写各表記載のような結果、すなわち、前記四名の営業における平均値において、原料大豆一升から、豆腐は二一丁四二、売上金二一四、二七銭(単価一〇円)、油揚は七一枚二五、売上金五六、二五銭(単価五円)が製造され、豆腐については売上高の五四、八四パーセント、油揚については同五四、七八パーセントの荒利益すなわち事業所得(豆腐商の事業から生ずる総収入金額から前記所得税法第一〇条第二項所定の必要経費を控除したものであつて、詳言すれば、豆腐の場合は大豆、凝結剤、燃料の各仕入代金、水道及び電気料金を、油揚の場合はそのほかにさらに油代金をそれぞれ控除した後の利益)があつたという事実が判明したことが認められ(前掲の各表によると、大豆の仕入代金は、樋口栄の場合は一升七八、二二銭、その他の者の場合は何れも一升八〇円以上となつているのであるが、被控訴人の仕入れた大豆の代金は先に認定したように一升七八、一六銭強であるから、被控訴人の場合の差益率は大豆の仕入代金だけを問題とする限り前記四名の場合よりもさらに高率となるべきである。)、これが反証はない。被控訴人は豆腐製造の技術が未熟で失敗することが多かつたので、他の同業者と同程度の利益を挙げることはできなかつたと主張し、被控訴人は原審及び当審における各本人尋問で、概ねこの趣旨に帰着する供述をし、また、成立に争のない乙第七号証には、大豆一升からできる油揚の枚数は、被控訴人の場合には前認定の平均値よりも遥に少ない六〇枚位であつた旨の記載があるけれども、前示証人多賀谷の証言によつて真正に成立したことが認められる乙第三号証によると、豆腐製造の技術は簡単なものであつて、半年もすれば普通に製造できるようになるものであることが認められるから、右供述及び記載はたやすく信用することができない。そして、被控訴人が先に認定したように昭和二四年中に豆腐商を開業し昭和二七年に至つたものである以上、被控訴人は昭和二七年以前から既に一人前の豆腐商になつていて、その技術、商才及び経営能力においても決して人後に落ちることはなく、昭和二七年度における被控訴人の豆腐商の営業は前掲各表(但し差益率の記載のある表)記載の平均差益率による事業所得を生じていたものと推定するほかはない。

なお、被控訴人は昭和二七年当時その妻が病気であつたとして、これが被控訴人において他の同業者と同程度の営業上の利益を挙げることができなかつた一因であると主張するから、その当否についてみるのに、昭和二七年当時被控訴人の妻の星野ふじが脊椎カリエス兼慢性腎炎を患つていたことは成立に争のない甲第二号証及び前示被控訴人各本人尋問の結果によつて明瞭であるけれども、前段認定の被控訴人の営業における差益率は豆腐製造に使用された大豆の量を基準として算定したものであるから、家に病人があつたことによつて直接何らの影響も受けないものであることは見やすい道理である。もつとも、家に病人があり、そのために製品の販売に当る人手が不足し、折角の製品である豆腐や油揚が腐敗して売物にならなかつたというようなことになれば当然右差益率にも変動を生ずべきであるが、被控訴人の全立証によつても被控訴人の妻の病気が右のような事態を招来したことを認めることは困難であるから、被控訴人の右主張は採用することはできない。

そうすると、前認定の被控訴人がその営業用に使用した大豆一、二一五升のうち六割の七二九升は豆腐、四割の四八六升は油揚の製造にそれぞれ使用され、豆腐については一五六、二〇二、八三銭(729升×214円27銭)、油揚については一七三、一三七、五〇銭(486升×356円25銭)の各売上があり、その結果として、被控訴人にはこの各売上に前記各差益率を乗じて生じた金額、すなわち、豆腐については八五、六六一、三七銭強(156,202.83銭×54.84/100)、油揚については九四、八四四、七二銭強(173,137.50銭×54.78/100)の各荒利益、以上二口合計一八〇、五〇六、〇九銭強の荒利益すなわち事業所得が生じたものといわなければならないが、成立に争のない乙第八号証には、被控訴人は豆腐商を営むため昭和二七年に三四、四一五円の必要経費を支出した旨の記載があるから、これが先に認定した以外の経費であつて、しかも、所得税法第一〇条第二項により事業所得から控除されるべきものとしよう。そして、この場合に右事業所得が一四六、〇九一、〇九銭となることは算数上明白である。

以上認定の事実によると、被控訴人の昭和二七年度分所得税の総所得金額は給与所得八五、〇〇〇円と事業所得一四六、〇九一、〇九銭の合計二三一、〇九一、〇九銭を下らないことになる(被控訴人の事業所得としては営業の性質上本文認定の所得のほかになお「おから」の売却による若干の所得が考えられなくはないが、この所得の認定は本件の結論に影響のないことが自明であるから、ここでは問題にしないことにする。)。この総所得金額の算定は、控訴人が当審において主張した所得算定方法に従つて行つたものであるが、控訴人は原審においてこの方法とは異なるいわゆる資産増減法によつて右金額を算定し、控訴人の行つた更正決定を適法であると主張しているので、当裁判所がこの方法によることを避けたゆえんについて簡単に言及しておこう。先に指摘したように、同一年度に給与所得と事業所得とがあつて、前者の額が証拠によつて確定される場合にこれをそのまゝ当該年度における総所得金額の一部として計上すべきことは論を待たないところであろう。問題は事業所得であるが、これを資産増減法によつて算定するのは果して妥当であろうか。控訴人主張の資産増減法による右総所得金額の算定については昭和二七年中における東京都居住者の一人当り平均年間生計費を基準として算出された推定所得がそのいわゆる増加資産の九六パーセント以上を占めているが、人の生計費は実際上は千差万別であつて、家庭が困窮しているような場合の実際の生計費は平均生計費よりも遥に少額であると考えられるから、資産増減法による所得額の推定は他により合理的な所得額推定の方法がある場合にはこれを避けるべきである。そこで、資産増減法に勝る所得額推定の方法であるが、先に指摘したように、被控訴人が昭和二七年中に豆腐商の営業に使用した大豆の数量が証拠によつて認定されうるとともに、豆腐商の実情として一定量の大豆からできる豆腐や油揚の数及び売価が殆んど画一的なものである(このことは公知の事実であり、前認定の調査の結果もこれを実証している。)以上、被控訴人の昭和二七年度分所得税の総所得金額のうちに計上されるべき事業所得額は被控訴人使用の大豆の量を基準とする方法によつて算定するのが最も合理的といわなければならない。当裁判所が本件においていわゆる資産増減法の採用を避けたゆえんはここにあるのである。

そうすると、控訴人が前認定の所得金額の範囲内で被控訴人の昭和二七年度分所得税の総所得金額を一九九、七三〇円と決定したのはもとよりこれを違法とすべき限りではないから、右決定のうち一六五、〇〇〇円を越える部分の取消を求める被控訴人の本訴請求は失当として棄却すべく、これと所見を異にする原判決は不当であつて本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 牛山要 田中盈 土井王明)

控訴代理人提出の昭和三三年五月一九日付準備書面の写

一、課税標準算定の根基について

被控訴人は係争年度の中、昭和二七年五月二〇日まで豆腐製造販売業を営んでいたが、同日以後は同事業を継続する約定で店舗什器を労働者クラブ生活協同組合に貸与し、同人は同組合の職員として同一業務に従事し、月額一二、五〇〇円、年末まで総額一〇〇、〇〇〇円の支給を受けた。そして被控訴人が組合から支給を受けた金額については、被控訴人の認めるところである。

よつて被控訴人の係争年度の所得金額を収支計算によつてこれを算出すれば次のとおりである。

(一) 仕入先及び同業者の調査によつて算出した場合

(イ) 大豆消費数量一、三九五升

事業は、昭和二七年一月より五月二〇日までの期間であるが、右期間内における埼玉糧穀株式会社よりの仕入状況によれば、期首及び期末の在庫品はいずれもほゞ皆無であつたことが認定されるので、右期間内の大豆の消費数量は仕入数量すなわち三一俵(乙第六号証参照)と同じとなるのでこれに一俵の数量四斗五升を乗じて算出した。

(ロ) 右大豆を原料として豆腐及び油揚の製造を行うものであるが本人の申立によれば、その製造割合は豆腐の六割に対し、油揚は四割であるので(星乙第七号証参照)前述一、三九五升を右割合に応じて接分すると豆腐使用分八三七升、油揚用の分五五八升となる。

(ハ) 豆腐及び油揚の売上金額

(1) 係争年中における大豆一升からの豆腐及び油揚の製造でき高を同業者四名につき調査したところ次表のとおり、豆腐については平均二一四円二七銭、油揚は平均三五六円二五銭と算出された(星乙第九号証の一乃至四参照)ので、この平均数値は、原告の場合にも妥当するものと認定した。

氏名

豆腐

油揚

数量

単価

金額

数量

単価

金額

樋口栄

二一丁五三

一〇円

二一五円三〇銭

七〇枚

五円

三五〇円〇〇銭

木田孫次郎

二〇 〇〇

二〇〇 〇〇

七二 五

三六二 五〇

小林留吉

二一 三三

二一三 三〇

七二 五

三六二 五〇

岡村丹

二二 八五

二二八 五〇

七〇 〇〇

三五〇 〇〇

平均

二一 四二

二一四 二七

七一 二五

三五六 二五

(2) よつて、(ロ)により求められた豆腐製造用八三七升に二一四円二七銭を乗じて算出した金一七九、三四三円九九銭が豆腐の売上金額である。また油揚のための使用量五五八升に三五六円二五銭を乗じて算出した金一九八、七八七円五〇銭が同品の売上金額であつて、右の合計金三七八、一三一円四九銭が収入金額となる。

(ニ) 豆腐及び油揚の利益率

この利益率は、同業者間の経営事情によつて差異は殆どないものと認定されるので、同業者の平均利益率を採用した。

(1) 豆腐については、同業者につき利益率調査を行い、一釜当りの生産高とこれに見合う材料費とから平均差益率五四、八四%を算出した、この算出の基礎となつた同業者四名の各計数を示せば次表のとおりである。(星乙第九号証の一乃至四参照)

氏名

生産高

材料費

差益(C)A-B

差益率C-A

数量

(A)金額

大豆

凝結剤

燃料

水道電気

(B)計

升 丁

樋口栄

六、五 一四〇

一、四〇〇

五〇八、四三

三四、〇三

八〇、〇〇

四、〇〇

六二六、四六

七七三、五四

五五、二五

木田孫次郎

七 一四〇

一、四〇〇

五六〇、〇〇

四〇、〇〇

五〇、〇〇

五、〇〇

六五五、〇〇

七四五、〇〇

五三、二一

小林留吉

七、五 一六〇

一、六〇〇

六三七、五〇

二〇、〇〇

八二、五〇

八、〇〇

七四八、〇〇

八五二、〇〇

五三、二五

岡村丹

七 一六〇

一、六〇〇

五六〇、〇〇

二七、〇〇

八〇、〇〇

一〇、〇〇

六七七、〇〇

九二三、〇〇

五七、六八

平均

五四、八四

(2) 油揚についても豆腐におけると同様の方法により、次表の計数から平均差益率五四、七八%を算出した。

氏名

生産高

材料費

(C)差益A-B

差益率A-C

数量

(A)金額

大豆

凝結剤

燃料

電気水道

(B)計

升 枚

樋口栄

五 三五〇

一、七五〇

三九一、一〇

二九一、九〇

一〇、五〇

一二〇、〇〇

三、〇〇

八一六、五〇

九三三、五〇

五三、三四

木田孫次郎

五 三六〇

一、八〇〇

四〇〇、〇〇

二九二、〇〇

一〇、五〇

五〇、〇〇

五、〇〇

七五七、五〇

一、〇四二、五〇

五七、九一

小林留吉

四 三〇〇

一、五〇〇

三四〇、〇〇

二六五、〇〇

五、六〇

八〇、〇〇

五、〇〇

六九五、六〇

八〇四、四〇

五三、六二

岡村丹

四 二八〇

一、四〇〇

三、二〇〇

二五〇、〇〇

四、五〇

六〇、〇〇

六、〇〇

六四〇、五〇

七五九、五〇

五四、二五

平均

五四、七八

(ホ) 事業所得金額

(1) よつて、(ハ)、(2)により得た豆腐の売上金額一七九、三四三円九九銭に(ニ)、(1)の差益率五四、八四%を乗じて豆腐の売上差益金九八、三五二円二四銭を算出し、また、油揚の売上金額一九八、七八七円五〇銭に差益率五四、七八%を乗じて同品の売上差益金一〇八、八九五円七九銭を算出した。従つてこの両品の売上差益金合計二〇七、二四八円〇三銭が原告の営業による荒利益金である。

(2) 原告は、右営業における荒利益を得るための間接経費は三四、四一五円である旨申立てているので、これを是認(この経費の中には、被告が右荒利益金を算出するに当り、すでに考慮済である光熱費を含むものであるが、原告の申立からは、これを分離することができないので全額是認した)し、前述荒利益二〇七、二四八円〇三銭から経費三四、四一五円を控除した差額一七二、八三三円〇三銭が原告の営業による所得金額である。

(ヘ) 雑収入(おから販売)四、一八四円

おからは、大豆一升から一、五升生産され、一升の価格は少くとも二円であることは被控訴人の申し立てるところであるから、前記の大豆消費量に基いてこれを算出した。

(ト) 従つて、右の事業所得金額一七二、八三三円〇三銭、雑収入四、一八四円に勤労所得一〇〇、〇〇〇円を加算した金二七七、〇一七円が原告の昭和二七年における所得金額であるから、この範囲内でなした被告の二一九、六〇〇円とする処分は適法である。

(二) 被控訴人が控訴人に申立た資料によつて算出した場合

(イ) 収入金額

大豆の使用量一、三九五升(三一袋×一袋当り四五升)を豆腐用八三七升、油揚用五五八升(豆腐六割、油揚四割に接分)に各使用した。これに豆腐の一升当りの出来高二〇〇円(一升当り二〇丁×一ケ一〇円)、また、油揚の一升当り出来高三〇〇円(六〇枚×一枚五円)を各乗じて豆腐の売上金額一六七、四〇〇円(二〇〇円×八三七)を、同様にして油揚の売上金額一六七、四〇〇円を算出し、この両者の合計三三四、八〇〇円が収入金額である。

(ロ) 必要経費

材料仕入代一七一、二三〇円及びその他経費三四、四一五円の計二〇五、六四五円

(ハ) 雑収入(おから販売)四、一八四円

(ニ) よつて、(イ)から(ロ)を控除した金一二九、一五五円に雑収入四、一八四円を加算した金一三三、三三九円が事業所得であつて、これに勤労所得一〇万円を加算した金額二三三、三三九円が年間所得であるから、被告の処分額を上回つていることが明白であり、右処分は適法である。

二、事業の経営及び生活程度について

被控訴人の妻が昭和二七年頃病弱であつたとしても炊事その他の家事に従事する程度のことはしていたのであるから、被控訴人及び息子は豆腐製造販売に専念できたものと考えられる(星乙二、四号証)。

被控訴人は、昭和二四年全くの素人として豆腐屋を開業したものであつて、製造技術が未熟のため失敗することが多かつたというが、被控訴人は豆腐屋を始めるまで、豆腐の材料である「ニガリ」の販売を業としていたのであるから、豆腐の製造技術については相当の知識を持つていたことは容易に推測される。のみならず元来、この技術修得は困難なものでなく、半年ないし一年程度の経験があれば充分であるというのが業界の常識であつて、開業以来三年も経過した昭和二七年頃になつても失敗つゞきであつたということは到底考えられない(星乙三、四号証)。

生活程度については、町内会費、町内寄付金額が町内の中位にあつたこと、病人用の牛乳として一日一本ないし二本購入し、その代金も遅滞したことがなかつたこと、また配給米の代金の支払いも確実であつたこと等を考量するとき消費実態調査年報(星乙一号証)記載の平均年間生計に達する生活を営んでいたものということができる(星乙四、五号証)。

備考 準備書面の各表に「岡村昇」とあるのは「岡村丹」、同「木田弥次郎」とあるのは「木田孫次郎」、同三枚目裏末行に「平均差益率五二、八七%」とあるのは「平均差益率五四、七八%」の各誤記と認められるので写では訂正しておいた。

控訴代理人提出の昭和三五年六月八日付準備書面の写

係争年間において、訴外室岡文次郎が被控訴人から大豆を買い受けたとすれば、被控訴人の営業用大豆がその分だけ減少することになり、よつて生ずる豆腐および油揚の事業所得金額並びに「おから」の雑収入金額の減少額は次の通りである。

一、室岡証言によれば大豆の買い受け回数は三、四回であり、同人の証言によれば一回当りの数量は二斗前後であるからその取引量は六斗乃至八斗になる。かりにこれを八斗とすれば、

(イ) 豆腐および油揚(事業所得)について

被控訴人の大豆使用割合は、豆腐用が六割の四斗八升、油揚用が四割の三斗二升(割合は被控訴人の申立による)、そして、豆腐用大豆一升当りの売上金額二一四円二七銭、油揚用は三五六円二五銭(控訴人の調査による)であるので、種類毎に、その各々を乗じて売上金額を算出すると、豆腐一〇、二八四円九六銭、油揚は一一、四〇〇円となる。また、各差益率は豆腐五四、八四%、油揚五四、七八%(控訴人の調査による)であるので、種類毎に、この差益率を右の売上金額に乗ずると、その金額は豆腐五、六四〇円二七銭、油揚六、二四四円九二銭となり、計一一、八八五円一九銭だけ事業所得金額が減少する。

これを算式に示せば次のとおり。

豆腐 4.8(斗)×214円27=10,284円96,10,284円96×54.84%=5,640円27

油揚 3.2   ×356 25=11,400 00,11,400 00×54.78 =9,244 92

計                            11,885 19

(ロ) 「おから」(雑収入)について

おからは大豆一升から一・五升生産(被控訴人の申立による)されるから、前記の大豆八斗の場合は、その生産量一二〇升となり、これにおから一升当りの販売価格(同じく被控訴人の申立による)を乗じた二四〇円だけ減少する。よつて係争年間の所得金額はすでに主張した金額二三三、三三九円より右の(イ)および(ロ)の計一二、一二五円を控除した二二一、二一四円となる。

二、また、もし、上申書記載の買受数量(三俵半ないし)四俵を採用すれば、一俵当り四斗五升(控訴人の調査による)としてその数量は一八斗。従つて、

(イ) 豆腐および油揚(事業所得)について

前記と同様の方法により、算出すれば、二六、七四一円だけ、被控訴人の豆腐および油揚による所得が減少する。

算式次のとおり。

豆腐 10.8(斗)×214円27=23,141円,23,141(円)×54.84%=12,690円

油揚  7.2   ×356 25=25,650 ,25,650   ×54.78 =14,051

計                             26,741

(ロ) 「おから」(雑収入)について

また、前記と同様の方法によりおからの生産量は二七〇升となるから、これに一升当りの販売価格二円を乗じた五四〇円だけ減少する(以上の計算方法については、控訴人の昭和三三年五月一九日付準備書面参照)。

よつて、係争年間所得金額は、先に述べた二三三、三三九円より(イ)および(ロ)の計二七、二八一円を控除した二〇六、〇五八円である。

したがつて、右一、および二、の所得金額の範囲内でした控訴人の処分は適法である。

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